ハイレゾ DAC 基板の製作
サンプリング周波数が192kHz、量子化ビット深度が24ビット対応のハイレゾ DAC 基板を製作します。
最近ではCDよりも高い解像度で保存された音楽データ(ハイレゾ音源)の配信サイトが増えてきて、比較的手軽にハイレゾ音源を入手できるようになっています。最も有名なのは e-onkyo music で、サンプル音源も無料でダウンロードできます。
ハイレゾ音源は今までCDでは再生できなかったスタジオの原曲に近い音の再生を可能にし、微妙なニュアンスやよりキメ細やかな音を再生します。
仕様の検討
入力I/F は S/PDIF のみとして USB DAC 機能はサポート外としました。採用する DAI(Digital Audio Interface) レシーバー IC はあちらこちらで使用例の多いシーラスロジック社のCS8416とします。
DACチップは TI 社製の PCM514x を採用します。このチップは外付け部品が少なく設計できかつサンプリング周波数が384KHz、量子化ビット深度が32bitまでサポートします。また、 DirectPath 技術によって3.3V電源でありながらアナログ出力を2Vrmsで出力可能で、さらに出力カップリングコンデンサを必要としません。
ヘッドホンアンプには NCP2811 という IC を使います。NCP2811はカップリング・コンデンサを必要としませんので、DAコンバータからヘッドホン出力までカップリング・コンデンサレスを実現できます。
これらの IC はソフトウェア制御もできますがハードウェアのみで設計可能なところも今回採用した理由の一つです。
電源は3.3Vの単一電源で動作できますので、USBバスパワーで5Vから3.3V電源を作ります。よって、電源供給用にUSB Mini-B コネクタを用意してUSB バスパワーで動作します。
基板寸法は50mm x 100mm にしました。試作ということで制限することはないのですが、基板メーカーの Fusion PCB でコスト的に効率の良い寸法が 100mm x 100mm で、2面取りをすることを考慮してのことです。
項目 | 仕様 | 備考 |
---|---|---|
基板寸法 | 50mm x 100mm x 1.2mm | |
DAIレシーバー | CS8416 | Cirrus Logic |
DA コンバーター | PCM5141 | テキサス・インスツルメンツ(TI) |
ヘッドホンアンプ | NCP2811 | オン・セミコンダクタ |
サンプリング周波数 | 32kHz/44.1kHz/48kHz/96KHz/192KHz | |
量子化ビット深度 | 16bit/24bit | |
オーディオ入力 | Optical 1系統 | TosLink |
Coaxial 1系統 | RCAピンジャック | |
オーディオ出力 | Line | RCAピンジャック |
ヘッドホン | Φ3.5mmステレオミニジャック | |
電源 | 5V 250mA | USB Mini-Bコネクタ |
回路図
RCA ピンジャックの回路シンボルにミスがあったのと、ヘッドホン・アンプ IC の「enable activation」ピンが未接続だったのを手書きで修正。
部品リスト
今回製作した基板の部品リストです。
使用部品は DigiKey 、秋月電子通商、千石通商で購入できます。
基板の概観
試作した基板の概観です。
デジタル入力の切替えはジャンパーピン J1,J2 で行います。J1,J2 ともショートで光入力、J1 オープン J2 ショートで同軸入力になります。
動作確認
動作確認はテスト信号発生ソフトの WaveGene を使用します。
WaveGene の対応する OS は Windows ですので、Windows 7 のノートPCにインストールしてテスト機とします。このノート PC は S/PDIF を持っていないので USB S/PDIF 変換基板(24bit /192KHz CM6631A USB to SPDIF coaxial DAC SC Assembled)を eBay で購入し、この基板の出力を今回作成した基板に入力します。
Windows 7 の設定
Windows のオーディオデバイスの設定を行います。
USB S/PDIF 変換基板を接続すると自動的に USB 2.0 High-Speed True HD Audio ドライバがインストールされます。「コントロールパネル」-「ハードウェアとサウンド」-「オーディオデバイスの管理」で開くサウンドウィンドウに USB 2.0 High-Speed True HD Audio が登録されていますのでこれを既定値に設定します。USB 2.0 High-Speed True HD Audio のプロパティを開き、詳細タブをクリックするとサンプルレートとビット深度を変更できます。標準では「16ビット、44100Hz( CD の音質)」となっているのを「24ビット、192000Hz(スタジオの音質)」に変更します。
WaveGene の設定
サンプリング周波数を192000Hz、量子化ビット数を24にします。出力する信号の波形、周波数、振幅等を変更します。例えばサイン波形、周波数400Hz、振幅0dB、出力チャネルL+Rとし、再生アイコンをクリックすると波形が表示されます。
オシロスコープでの確認
試作した基板でテスト信号発生ソフトで出力した波形を確認します。ビット落ちが無いように Windows のボリュームを最大にしています。
周波数10KHz、振幅 0dB の信号をオシロスコープで観察しています。CH1 にアナログ出力波形、CH2 に I2S インターフェースの LRCK 波形となっています。LRCK はサンプリング周波数を意味しています。オシロスコープの波形をみると、LRCK は192.2KHzとなっていることがわかります。
簡単な確認ですが、このことからハイレゾ音源(192KHz/24bit)の再生が正しく行われているのがわかります。
ハイレゾ音源の試聴
ハイレゾ音源を試聴してみます。音源は e-onkyo music で無料配信されているチャイコフスキーの「SOUVENIR de Florence op. 70 第一楽章 Allegro con spirito」で 192KHz/24bit の flac ファイルです。
試聴は CentOS 6.5 の音楽プレーヤーで Ubuntu にも標準でインストールされている Rythembox で行います。Rythembox のデフォルトの状態では 44.1KHz、16bit で再生されてしまいますので、設定ファイルを変更する必要があります。変更するのは Pulse Audio の /etc/pulse/daemon.conf ファイルで、
; default-sample-format = s16le ; default-sample-rate = 44100
この2行をアンコメント(左端の ; を消す)し s16le を s24le に、44100を192000 に変更します。
default-sample-format = s24le default-sample-rate = 192000
さて、ハイレゾDAC 基板での試聴結果ですが、深みのある低音がしっかり再生されていて、中域から高域までもクリアでバランスが取れているように感じます。低音の再生については PCM5141 の DirectPath テクノロジーによるものかもしれません。また、その低音はヘッドホンでも再現されているようです。
頒布
ご希望の方に、今回製作しました ハイレゾDAC 基板(プリント基板のみ)を無償(送料はご負担いただきます)でお譲りします。「お問い合わせ」からメールをいただきました先着(受信時刻)4名(1枚/1名) とさせていただきます。また、以下の注意事項に同意を頂ける方に限ります。
<<注意事項>>
- 本プリント基板を第三者に有償、無償を問わず譲渡しないこと
- 部品実装および動作等の基板製作のためのサポートは一切受けられないこと
- 本ページ記載内容の不備、本プリント基板、および部品実装後によって生じたいかなる損害、トラブル等に当方は責任を負わないこと
- 部品の購入、半田付けは自分で行えること
- 送料は当方指定の方法でお支払いいただけること
上記注意事項に同意をした上で、ハイレゾ DAC 基板をご希望の方は「お問い合わせ」の件名を「ハイレゾ DAC基板希望」として本文に、お名前、送付先住所、メールアドレスを記載して送信願います。
尚、すばやい対応ができないかもしれませんがご容赦願います。
リワーク
設計ミスのために以下のリワークが必要になります。
- RCA ピンジャック(3個)のボス(1箇につき2箇所)を削除
- RCA ピンジャックのパターンカットおよびレジスト剥ぎ(実施済み)
- RCA ピンジャックのパターンの1ピン、2ピンの入れ替え(下記画像@参照)
- IC5 の7ピンを10kΩでプルアップ(IC5 の7ピンとC25のIC5側を10kΩで接続:下記画像A参照)
画像 @
画像 A
基板収納ケース
基板を収める簡易的なケースとしてiPod nano の同梱物が収納されていたアクリルのケースがいい感じです。
基板を修正した完成品(DAC は PCM5102A に、オーディオ部以外の抵抗およびセラミックコンデンサはチップ部品に変更)をLINUXCOM ネットショップで頒布しています。興味のある方は寄ってみて下さい。