iPad でも使える!小型で高音質! USB オーディオ DAC
多くのバスパワーで動作する USB DAC を iPad に接続すると「デバイスを使用できません」「接続中のUSBデバイスは消費電力が大きすぎます。」とのメッセージが表示されそのまま使用することができません。このため、 iPad でバスパワーの USB DAC を使うにはセルフパワーの USB ハブを間に介する必要があります。
外部電源やセルフパワーの USB ハブが必要ということでiPad と一緒に持ち運ぶのでは、いくら DAC 本体が小型に設計されていてもそのメリットが無くなってしまいます。
そこで、以前設計した TI バー・ブラウン製 D/A コンバータ PCM2704 を使用した USBメモリタイプ DAC 基板を変更してバスパワーで動作する iPad 接続可能で、さらにより高音質化を図った USB メモリタイプオーディオ DAC 基板を設計することにしました。
デバイスの最大消費電流を100mAに設定
PCM2704 ではバスパワー動作時の最大消費電流を100mAとするか500mAとするかを21ピンの HOST 端子によって設定することができます。この設定による違いを確認しました。
確認は自作した USB DAC PCM2704 基板で行いました。この基板では HOST 端子に接続した pull-up 抵抗と pull-down 抵抗によって設定することができます。デフォルトでは PCM2704 データーシートの推奨どおり HOST 端子を "High" にしていますので、pull-down 抵抗(15Ω)を実装して "Low" にします。
この状態で iPad 2 に接続(もちろんカメラコネクションキット経由で)すると「デバイを使用できません」メッセージは表示されず、USB DAC PCM2704 基板から音が出ることが確認できました。
このことから、iPad では Dock コネクタに接続されるデバイスの最大消費電力の設定が 100mA 以下であれば問題ないようです。しかし、この設定で実際の消費電流が 100mA を超えた場合の iPad の動作については確認できていませんが。
セルフパワー設定での確認
上述のように最大消費電流の設定を 100mA にすれば良いようですが、それ以外でもセルフパワーの USB ハブを間に介すれば動作することが確認できていることからセルフパワーで動作することにすれば iPad への接続に問題がなさそうです。
PCM2704 のデータシートでは 4ピンの PSEL 端子でセルフパワー・モードかバスパワー・モードに設定することができます。ということは実際には USB インターフェースからの電源 (VBUS)で動作させるが、この PSEL の設定でセルフパワー・モードにして、ホストに対してはセルフパワー・デバイスと認識させれば良いと思われます。
具体的には PSEL 端子を "Low" にし、PCM2704 に供給する3.3V電源を USB インターフェースからの電源(VBUS)から電源 IC (LDOリニア・レギュレータ) で基板上で生成して供給するといった回路変更が必要になります。
この変更によって iPad への接続で「デバイスを使用できません」メッセージは表示されず、USB DAC PCM2704 基板の正常動作を確認できました。
iPad 対応 USB メモリタイプ DAC 基板の設計
これらの変更を以前設計した USB メモリタイプ DAC に反映させます。基板のレイアウトも再設計になりますので、DAC の音質の改善に効果のあるクロックの精度を上げる変更もします。具体的には現在12MHzの水晶振動子を源振としていますが、これを温度補償型水晶発振器(TCXO)に変更しました。
使用した温度補償型水晶発振器は FOX 社の FOX924B-12 で、一般的な水晶振動子の周波数偏差が±50ppm に対して±1.5ppm というものです。
これによって、電源の安定化とクロックの安定化がより図られ音質の向上が見込まれます。
主な仕様
主な仕様は以下になります。前バージョンとの違いはありません。
項目 | 仕様 | 備考 |
---|---|---|
基板寸法 | 17mm x 47mm x 1.2mm | |
外形寸法 | 17mm x 65mm x 8mm | PC接続時突出部55mm |
DA コンバーター | PCM2704DB | テキサス・インスツルメンツ(TI) |
サンプリング周波数 | 32kHz/44.1kHz/48kHz | |
分解能 | 16bit | |
入力 I/F | USB 1.1 | USB A タイプコネクタ(オス) |
出力 I/F | ヘッドホン/ライン | Φ3.5mm ステレオミニジャック |
電源 | バスパワー(5V 500mA) |
回路図
回路図は以下になります。主な変更は電源 IC の追加とクロックの供給源を一般的な水晶振動子から温度補償型水晶発振器としたことです。
部品表
使用部品のリストです。出力カップリング・コンデンサにはニチコンのオーディオ用タンタル固体電解コンデンサを使用しています。
デバイス名 | 型名 | 定数 | 定格 | リファレンス番号 |
---|---|---|---|---|
プリント基板 | MINI-USBDAC_Rev.2 | |||
DAコンバーター | PCM2704DBR | - | - | IC1 |
LDO | LP38690DT-3.3 | - | - | IC2 |
LED | SML-51UWT86 | - | 赤,630nm | D1 |
USB A コネクタ | - | CN1 | ||
ステレオミニジャック | ST-005 | - | CN2 | |
ポリスイッチ | MICROSMD050F | - | 500mA | F1 |
フェライトビーズ | BLM18EG221TN1D | - | - | L1 |
炭素皮膜抵抗器 | RK73H1JTTD1004F | 1MΩ | 1/10W,1% | R2 |
炭素皮膜抵抗器 | RK73H1JTTD1501F | 1.5kΩ | 1/10W,1% | R1,R5,R13,R16,R18 |
炭素皮膜抵抗器 | RK73H1JTTD22R0F | 22Ω | 1/10W,1% | R3,R4,R7,R8,R17 |
炭素皮膜抵抗器 | RK73H1JTTD3301F | 3.3kΩ | 1/10W,1% | R9,R10,R11,R12 |
セラミックコンデンサ | GRM1888B11E104KA01D | 0.1uF | 25V,±10% | C1,C5,C15 |
セラミックコンデンサ | GRM188B11A105KA61D | 1uF | 10V,±10% | C7,C8,C9 |
セラミックコンデンサ | 10uF | 10V,+80%,-20% | C2,C3,C10,C16 | |
セラミックコンデンサ | 0.015uF | 50V,±10% | C11,C12 | |
タンタル固体電解コンデンサ | F950J107MSAAM1Q2 | 100uF | 6.3V,20% | C13,C14 |
温度補償型水晶発振器 | FOX924B-12 | 12MHz | X1 |
レイアウト図
GND パターンはアナログ GND とデジタル GND の分離をしています。部品面にアナログ GND、半田面にデジタル GND として1点アースで接続しています。
部品面のレイアウト図です。
そして半田面のレイアウト図です。
使用方法
動作の確認は Linux (Ubuntu 12.10)、Windows XP/Vista/7 で確認しています。また、参考として iPad 2 での動作も確認しています。
Linux
Ubuntu 12.10 で確認しています。PC の USB コネクタに直接挿入し、「システム設定」-「サウンド」に追加されている「アナログ出力 USB Audio DAC」を選択することで使用可能になります。
Windows Vista/7
PC の USB コネクタに直接挿入することで、ドライバがインストールされて使用することが可能になります。デバイスマネージャーでは「USB Audio DAC」として認識されます。コントロールパネルの「ハードウェアとサウンド」-「サウンド」で再生デバイスとしてスピーカーUSB Audio DACが追加されていることが確認できます。
Windows XP
PC の USB コネクタに直接挿入することで、ドライバがインストールされて使用することが可能になります。デバイスマネージャーでは「USB オーディオ デバイス」として認識されます。コントロールパネルの「サウンドとオーディオデバイス」のプロパティ「オーディオ」タブの音の再生に「USB Audio DAC」が追加されていることが確認できます。
iPad 2
前バージョンではiPad 2 で使用するには iPad 2 のドックコネクタを USB コネクタに変換する Camera Connection Kit MC531ZM/Aとセルフパワーの USB ハブが必要でしたが、今回設計した基板では USB ハブが不要になります。
因みに、動作確認で使用した iPad 2 の OS バージョンは iOS 6.1.3 です。
また、iPad mini で Lightning to USB Camera Adapter MD821ZM/A(USBカメラアダプタ)経由で接続して動作することも確認しています。
残念ながら iPhone5 ではこの Lightning to USB Camera Adapter はサポート外のようで「このアクセサリはiPhoneでは使用できません」というメッセージが表示され使えませんでした。 iOS 7でこの Lightning to USB Camera Adapter がサポートされたようです。iPhone 5 を iOS 7.0.2 にアップデートすることで「このアクセサリはiPhoneでは使用できません」というメッセージが表示されなくなり動作することを確認しています。
基板の概観
USB メモリタイプ DAC 基板の概観と主な搭載デバイスです。
こちらは部品面です。
頒布
こちらの基板はLINUXCOM ネットショップで頒布しています。興味のある方は寄ってみて下さい。